インプラントの歴史

インプラントの歴史と歩み 古代から人は、失った歯を取り戻したいと望み、代用品での回復を試みてきました。 その歴史は古く、インカ時代のペルーでは、エメラルドや水晶、アメジスト、中国やエジプトでは、象牙が植えられたものが見つかっています。その他、紀元前のトルコやギリシャ等でも、石や貝殻、動物や人の骨や歯など、様々なもので代用を試みてきた形跡が、残されています。 その後、金、サファイア、鉄など、様々な材料での研究が行われてきましたが、1950年代にチタンと骨が結合することが発見されて以来、インプラントの技術は、大きな飛躍を遂げることとなりました。

近代インプラントの幕開け

近代インプラントの幕開け


インプラントとは「移植する」「植え込む」等の意味のある言葉で、広くは、移植組織片、挿入管などのことも意味する言葉です。 人工歯(人工歯根)は正確には、歯のインプラント(デンタル・インプラント)として区別されます。 現在主流のチタン製、骨結合型のインプラントシステムが確立されるまでには、様々な材料やシステムが研究開発されては、時代の波に流されていきました。 19世紀初頭には、金やポーセレン、弾性ゴムなどがインプラントとして利用されていたと言われています。 近代インプラントの起源ともいわれるのが、1913年のGreen-fieldの歯根型インプラントです。その後、1930年代にStrock兄弟が始めた「歯内骨内インプラント」や、1940年代には、骨と粘膜の間にフレームを入れる「骨膜下インプラント」という方法などが考案されていきました。


チタン製インプラントの誕生

ブローネマルク博士
▲ブローネマルク博士

1952年、今からおよそ半世紀ほど前に、スウェーデンの科学者、ブローネマルク博士 (Per-Ingvar BranemarkM.D.,Ph.D.) が、チタンが骨の組織と結合するという事実を、発見しました。

ブローネマルク博士はスウェーデン、イェーテボリ市の、応用生体工学研究所所長をつとめた科学者で、偶然ウサギの顎骨に埋入した純チタン性の実験装置が、骨組織と強固に結合することを発見したのが、きっかけでした。

現在では、チタンは「バイオメタル」と呼ばれることがあるほど、生体に対する親和性が高い素材として知られています。しかし、当時の医学界の常識では、金属と骨が結合するなど、とても考えられないことでした。

チタンと骨が結合する事を発見したブローネマルク博士は、これを「オッセオインテグレーション」と名付けました。オッセオとは「骨の」、インテグレーションは「結合」という意味です。
そして1960年代、博士はスウェーデンのイエテボリ大学に移籍して、膨大な基礎研究を続けると共に、オッセオインテグレーションを利用したインプラントを開発。1965年に初めて、純チタン製のインプラントの臨床応用が行われることになります。


1960年代〜80年代のインプラントの主流

古いインプラント
▲ブレード・インプラント

古いインプラントのレントゲン
▲ブレード・インプラントのレントゲン写真

 
▲骨膜下インプラント

昔のインプラントのレントゲン
▲骨膜下インプラントのレントゲン写真

当時既に、現在のインプラントの基礎となる、チタン製の骨結合型インプラントが産声をあげていましたが、ブローネマルク博士が歯科医師ではなかった事や、金属が体内で生かされることへの懐疑等が影響して、当時の社会にそれほど影響を与えることはありませんでした。 チタン製骨結合型のインプラントが脚光を浴びるのは、1981年。1965年の初めてのインプラントから15年以上に及ぶ、博士の数多くの臨床データと治療経過の良さが、論文として発表されてからのことになります。 それまで臨床の現場においては、Chercheve(1961年)のスパイラルインプラント、Linkow(1970年)のブレードインプラント、Sandhouse(1969年)のCBSインプラント、Kawahara(1978年)のサファイアインプラントなど、現在とは流れの異なるタイプのインプラントが支持されていました。 これらのインプラントと骨との間には、一層の軟組織が介在した状態で、わずかな動揺は許容され、5年以上持てば良いと考えられてる治療でした。 これらのインプラントには、軟組織(偽歯根膜)が介在していたため、理論的には「線維性骨結合」と考えられていました。

1970年代、80年代にかけてのインプラントの主流は、骨内で結合させる「歯内骨内インプラント」や、「骨内ブレードインプラント」、また、骨膜と粘膜で固定する「骨膜下インプラント」というものがありました。インプラントの材料も、数々の金属や合金、サファイア等、様々なものが用いられていました。 「骨膜下インプラントは」、歯ぐきをめくって顎骨の形状を型取りし、これに合うようなインプラントフレームを作成し、再び歯ぐきをめくって、骨膜の下に間にフレームを入れて、骨膜と粘膜で挟んで固定する方法です。 金属プレートを骨膜下へ入れるための外科的な負担が大きく、術式も複雑で、また、骨と結合していないことによる不安定さや、著しい骨吸収が起こる場合があり、トラブルが発生しやすい側面を持った治療法でした。

骨膜下インプラントの材料には、主にコバルトクロム合金が使われていました。コバルトクロム合金は、整形外科などでも使用されている材料で、整形外科では、骨がくっつくまでの間に利用し、骨がくっついたら外すという、一時的な使い方をされている合金です。 歯のインプラントの場合は、恒久的に口の中で歯として機能することが要求されます。 コバルトクロム合金は、はじめはある程度有効な方法でしたが、長期の使用には適しておらず、広く普及しませんでした。「歯内骨内インプラント」は、歯周病で歯が動揺している場合や、根尖性歯周炎、歯根嚢胞(いずれも歯の根の病気)などの場合に、その歯の動揺をなくして固定し、歯の延命を行う方法です。
病気の部位にインプラントを行うことになるため、現在では、ほとんど行われておりません。

当時のインプラントは今とは異なりトラブルも発生しやすく、安全性が高い治療とは言いがたいものでした。そのため、この時期にインプラントを知った方の中には、インプラントは怖いという認識をもたれている方もいらっしゃいます。
しかし現在では研究が進み、成功率も極めて高い、予知性のある治療法として確立されています。適切に処置を行えば、まず問題はありません。


現代インプラントシステムの確立

スクリュータイプのインプラント
▲シリンダータイプのインプラント

シリンダータイプのインプラント
▲スクリュータイプのインプラント

骨膜下インプラント、ブレードインプラントなどが主流を占めていた中、現在のインプラントの基礎となるシステムも、研究、開発を進められてきました。 1985年以降にはチタンの表層に厚さの異なったハイドロシアパタイト(HA)をコーティングしたインプラントも開発されています。 現在主流を占めているのが、純チタン、チタン合金を使用した、骨結合タイプのインプラントです。 骨膜下インプラントや、ブレードインプラントの形状と比べると、より歯根に近い形状をしているのが特徴で、ルートフォーム(歯根型)と呼ばれます。 形状としては、はじめはシリンダータイプが主流でしたが、その後、スクリュータイプのほうが結合が固いことがわかり、そちらが主流になっています。

現在のインプラントで、世界的に評価されシェアが特に高いのが、ブローネマルク・インプラントと、ストローマン・インプラント(ITIインプラント)です。

ブローネマルク・インプラントは、初めてチタンの骨結合を発見したブローネマルク博士が確立した、定評のあるインプラントシステムです。

ストローマン・インプラントはスイスのストローマンと、国際口腔インプラント学チーム(ITI)との綿密な協力体制のもとに築きあげられた、信頼性の高いインプラントシステムです。特にインプラント体の表面加工に定評があり、より骨と強固に結合しやすいものとなっています。また形状的に、日本人に適した傾向のあるシステムでもあります。インプラントは改良を重ねられ、より安全性の高いシステムが臨床に応用されるようになりました。
そして現在のような、安全性と予知性の高い治療法となったのです。

チタンが骨と結合する仕組みは、医療の現場においては人工関節等にも応用され、多くの方の人体の一部として存在しています。